忍者ブログ

自走式空想会社:クルーシブル

二匹の空想生命体・トビスケとまほそがファンタジーを創ったり、おいしいご飯を食べたりするブログ。

燦然のソウルスピナ 第三話・第十一夜:緋色の帆

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

燦然のソウルスピナ 第三話・第十一夜:緋色の帆

 

         ※



 第一の異変は翌日の朝、判明した。

 カテル島の周辺海域を定期的に巡回する防衛艦隊から小型のガレーシップが一隻、火急の報を持って帰還したのだ。

「法王庁の特使船団がこちらに向かっている? ミドラの岬を回った? ほぼ一日の距離ではないか!」
 騎士団長:ザベルザフトから手紙を回されたノーマンは思わず吠えた。

「前衛艦隊はなにをしていたのか!」
「商船に偽装していたらしい。おそらく密使としての役割をもっているのだろう。帆も、昨夜までは商船のものだったそうだ。イクス教圏の船を片っ端から臨検しているのでは、エスペラルゴ帝国のメルセナリオとなにも変わらなくなってしまうからな。帆は、わがカテル病院騎士団の領海に入り込む際に替えたのだろう」
「色は?」
「緋色に白の染め抜き円十字」
 ノーマンの顔色が変わった。円十字はエクストラム法王庁。そして、緋色は……。

「枢機卿艦だと?!」
「乗り心地の悪い大型ガレーシップ三隻の小集団だ。とても枢機卿猊下がお召しになられるような船ではないが、そのかわり速力は出るからな。まあ、いまごろ左右に振られて青くなっていらっしゃるかもしれんが」

 ガレーシップは速力を得られるかわりに、高速域では左右に切り込むように倒れ込む癖を持つ。
 やんごとなき高位聖職者のお召し船としては不適だったろうに、と騎士団長:ザベルは言ったのだ。ふ、とその口元に笑みが浮かんだ。


 ザベルはまだ若いころアラム勢力との戦いで左目を失う経験をしていた。
 流矢に目をやられたのだ。それ以来、眼帯をはめ、いまでは灰色になってしまった頭髪をなでつけた姿はどちらかというと騎士というより、威厳ある海賊の頭領のようだ。


「笑い事ではありませんぞ、団長。法王庁からの特使、それも枢機卿が到着するなど……よりにもよっていま、このときに! 
 ダシュカマリエ大司教はあと七日は儀式から抜けられぬ。法王庁も間抜けではない。おそらく、特使の件は隠蓑に過ぎまい。なにごとか嗅ぎつけたのか」


「焦るな、ノーマン。まずは受け入れの準備をしよう。ダシュカマリエ大司教は“予言”されてはいなかったのだろう? ならば“大事ない”さ。
 さいわいにもカテル病院騎士団の責任者はわたしだ。大司教についてはありのままを伝えようぞ。“重病人を治療中のためしばらく面会できぬ”とな。
 枢機卿猊下の御身にも障るかもしれんと。嘘は言っていない。事実だろう? それでもなお探りたいなら、探らせればいい」


「探らせる?」

「そうさ。土蜘蛛と夜魔と、その追手が“我らの客人”を狙って迫っておるのだろう? いつ戦地になるやもしれぬ場所に、くちばしを突っ込もうというのだ。覚悟した連中だということさ。ここはあの平和な法王庁ではない。風景こそ明美だが、アラム勢力、異種族との闘争の最前線だ。そして戦場での同士打ちは起こることだ。避けられん」

 あるいは、とザベルは言った。彼自身《スピンドル》能力者だった。

「不用意に街道を外れた途端、忌むべき人類の敵に喉を掻き切られることになるかもしれんというのは、旅慣れた者ならだれもが知っているだろう」

 外交特使が負傷したり、殺害されたりしたのなら、それは武力侵攻に訴えかける大義名分を与えたも同然であった。
 それがカテル病院騎士団領内で行われたなら、相応の叱責を受けることは間違いない。もしかしなくても大司教位の首のすげ替えくらい行われるだろう。
 だが、あえてそれを成せ、とザベルは言うのだ。


 ダシュカマリエの首をすげ替えられるものなら替えてみろと、ザベルは言うのだ。
 
 法王庁が認めた聖遺物:〈セラフィム・フィラメント〉を引き剥がせるものなら、剥がしてみろと。それでもなお法王庁側がカテル病院騎士団の責を問うてくるなら、凶行の報復という機運をでっちあげ、アラムと、あるいは夜魔、土蜘蛛とを巻き込んだ全面戦争のための派兵を――つまり十字軍を――直訴しにこちらから出向いてやる、とザベルは言うのだ。


 後方でぬくぬくと暮しているおまえたちに、そこまでの覚悟があるのか、と。
 最前線に居座る――常在戦場を地で行く騎士でなければ思いつかぬ論理だった。

「どちらに転んでも、我らは得をするのだ。使命を全うするのはもちろんだが、小うるさい蝿どもを叩きつぶしたうえに、本懐を遂げられるのだからな」
 ノーマンが呆れ半分、賛嘆半分でため息をついた。

「団長の肝の座り具合には、かないませんな」
「次期団長は貴公であろうから、いまのうちによく冷やしておけ。そのうち取り除かねばならなくなるのだから、その前に冷え具合を愛でておくのだ」
 さらさらとペンを走らせ、判をつき、ザベルはノーマンに一枚の書類を手渡した。

「歓待の用意をするための命令書だ。市長に渡せ。
 騎士館は臨戦態勢にあるため、聖堂は重病者の看護のため、貸し出せぬ。

 商館か、旅籠か、とにかく借り上げるように命じろ。
 費用はこちら持ち、接待などから得られる利益と面倒ごとはそちら持ち、それで取引だ。

 国賓として充分に歓待しろと。
 それから、入国管理官には上陸メンバーを重ねて把握するよう通達だ。
 いいか、諜報戦だ。思想と信念がものを言うぞ」


 ザベルはこともなげに言い放つが、その口元には鮫のような笑みが浮かんでいた。
 右の握り拳を心臓の上に置くやり方で敬礼し、帯剣し直して騎士館を出るノーマンの口元にも、いつしかその笑みは伝播していた。

 ノーマンもまた、そういう意味で筋金入りのカテル病院騎士だったのだ。



         ※


 翌日の午後、法王庁の一行が南回りの航路を通り入港を果たしたとき、カテルの港町はすでに完全に歓待の支度を整え終えていた。

 カテル病院騎士団は、統治者として島の住人の多くから圧倒的な支持を集めてきた。

 どんな重病人も無償で治療し、生誕から死没の洗礼までに関わる医療のすべて――すなわち揺籠から棺桶までの一切を引き受けてくれる統治者を、住民が支持しないはずがない。

 西方世界最高の医療を提供され、加えて騎士団は品行方正、金払いもよいときている。

 戦後処理にあっても戦没者見舞金、遺族年金を欠かしたことなどなかったから、いざ事に及んでは、これはもうカテルの港町全体が騎士団の下部組織として一致団結する構えだったのだ。


 総数で一千騎あまりの騎士しか在籍しないカテル島が数万のアラム勢力相手に幾度も防衛戦を勝利で飾ってこれたのは、この住民からの揺らがぬ支持と団結力があればこそだった。
 結局のところ国の勝敗を決する要因は「国民からの信頼」に拠っているのだという証左だとアシュレは思う。


 ところで、いまアシュレは商館の二階の窓から、上陸し騎士館坂と呼称される斜面を昇ってくる法王庁の使節を見下ろしている。なぜか、女装して。

「そなた……信じられん美貌というヤツだな」

 傍らでシオンの声がする。
 商館の貴賓席を借り受け、アシュレは使節の面通し役を務めている。法王庁の使節を出迎える庶民に混じって、その使節の概要を探るのが任務だ。

 なにしろ、二ヶ月前まではイクス教の本営、エクストラム法王庁内勤だったのだ。法王庁の最新の人事に精通しているのは間違いなく聖騎士だったアシュレなのだ。


「いや、だって、お尋ね者のボクが面と向かうわけにはいかないし、隠し部屋とか下手な小細工打つよりも、これくらい大胆な作戦のほうが気取られにくいって、ノーマンも言ってたしさ……」
 笑みを作りながら、使節を見下ろしたままアシュレは言葉にする。

 その姿は、すらりと背筋の伸びた美女のそれだ。

 たおやかな、と形容するにはたしかにはっきりとした骨相であったが、よく鍛えられたスレンダーな肉体は研ぎ澄まされた刃のように美しかった。

 尼僧たちに着付けられ、胸を偽装し、化粧されるアシュレをシオンが笑い転げながら見ていられたのは最初のうちだけだ。いや、最初は楽しげに笑い合っていた尼僧たちも黙り込んでしまった。作業が進むにつれ、あることが判明したのだ。

 しゃれにならない美貌だった。

 実年齢にしても童顔なアシュレだったが、きちんと着付けられ化粧されていく過程で、その潜在的な資質が明らかになったのだ。

 結論として、それはおそろしい効果を周囲にもたらした。

 シオンなど、あまりの愛らしさに逆に興を削がれてげんなりなってしまったくらいだ。からかったり、物笑いのネタにするなどという次元をはるかに超えていた。

 怪物じみた女子力だった。

 美女というには幼い印象だが、頬と唇に紅を引かれたその姿は間違いなく良家の、深窓の令嬢そのものだったのだ。

 じぶんたちはなにかとんでもないものを世に放ってしまったのではないか、そういう空気が尼僧たちの間に、言葉によらず共有されてしまうくらいには、それは見事だった。

「来た――ちゃんとオープンタイプの馬車にしてくれてる。

 枢機卿もこの天気で寒いだろうけど、お忍びできたのにこんなに歓迎されたら答えないわけにはいかないさ。
 人心を把握すること、人気取りは重要な彼らの仕事だからね。

 いや、しかし、カテル島の人々の協力はすごいな。ボクがアラムの将軍なら、この島を攻めるのはご免こうむるよ。
 団結した志気の高い住民は堅固な城壁に勝るっていうけど、ほんとだね。そりゃあ、この島が難攻不落って言われるわけだ」


 自身も窓から身を乗り出して手を振りながら、アシュレはかたわらに隠れるシオンに感想した。シオンの手にはペンが握られ、使節の概要を記す算段になっている。
 階下の喧騒と熱気は鉛色の雲を吹き飛ばしかねない勢いだ。

「アシュレ、そなた、あまり目立たぬようにしておけ」
「大丈夫、これだけ盛り上がっていたら、憶えていようがないさ」
「そなた、自分の容貌を鏡で確認したか?」
「! や、やっぱり、変かい?」
「東洋ではそういうのは知らぬが仏、と言うらしいぞ?」

 慌てた様子でシオンを省みる仕草は、どうみても美少女のものでシオンは、またため息する。

「おかしいよね、やっぱり!」
「逆だ、アシュレ。違和感がなさすぎて、恐い」
 そなた、女装すると仕草まで完璧に女になるのだな。シオンは困惑顔だ。

「いや、これはっ、そのっ、むかし、女の子の格好させられていたから……あと、よく遊んでくれたのがユーニスやレダマリアだったり、お姉ちゃんだったり――」
「そなた、一人っ子だと聞いたが?」
「ああ、貴族繋がり、聖騎士繋がりのね。家族ぐるみでつきあっていた一家があってさ。そこのお嬢様だよ。いや、いま考えると、ひどい目にあわされたなあ、あのヒトには」
「アシュレ、任務を忘れるな」
 そうだった、とシオンの指摘に昔語りに陥りそうになっていたアシュレは我に返った。

 改めて使節を観察する。
 アシュレには枢機卿と、その護衛が誰であるのかすぐに判った。

「ラーンベルト・スカナベツキ枢機卿――聖誕祭を目前にして“教授”を送り込んでくるってことは、この使節、やっぱりただの小間使いじゃないな」
「“教授”?」
 アシュレの口ぶりにシオンが興味を示した。

「ああ、スカナベツキ枢機卿の徒名だよ。

 聖職者というより学者だって他の枢機卿からは揶揄されるけど、実際は聖遺物管理課の練金学的捜査の元締めにして、第一人者でね。

 検死から、解剖、手術、化学実験まで手広くやる実践派・実学主義のやり手さ。

 各地の修道院が抱えていたアガンティリス王朝期の技術を、庶民に解放する運動を推進してきた人間でもある。
 穏健で柔和に見えるけど、恐いヒトだよ、本当は」


 シオンは窓辺の植え込みに身を隠した使い魔:コウモリのヒラリを介してその容貌を確認している。外見から判断するに、おそらく年の頃は五十代半ばから後半だろうその男は、秀でた額に眼鏡をかけ、にこやかに手を挙げては民衆の歓声にいちいち応えてやっている。

 鷹揚で柔和な雰囲気だが、目は笑っていない。年の割に色艶のよい肌。黒々とした頭髪、理知的な印象が強い。


「ボクら聖遺物管理課の練金学部門の先生さ」
「手強いな」
「敵に回ればね。んっ、護衛は女性騎士だ……聖騎士のサーコート……まさか」

 それまで冷静に使節を観察していたアシュレの挙動が一転、不審になった。
 どうした、とシオンがアシュレを見た。

「まさか、それはないよね。まいったなー、うわ、これどうしたらいいんだ???」
 笑顔をひきつらせるアシュレの眼下で白馬に乗った女性騎士はヘルムを脱いだ。

 ふわり、と脱ぎさるときに解けてしまったのであろう、すこし赤みを帯びた豪奢な金髪が宙を舞った。強い癖毛があちこちで跳ね、逆にそれが炎のように女性騎士のはっきりとした目立ちの美貌を彩る。太い眉の下で強い意志と同時に好奇心に満ちた瞳が光をたたえている。

「やっぱり、ジゼル姉だ。あの髪の毛、眉、間違いない……」
 アシュレの笑みは完全に硬直していた。

「だれだそれは?」
「十九歳で聖騎士入りを果たした女傑。ボクが受かるまで、史上唯一の十代の聖騎士だった女性――ジゼルテレジア・オーベルニュ」
「エクストラムのオーベルニュ家? それなら、わたしでも知っているぞ。たしか、十代続けて聖騎士を輩出し続けてきた名家だったと記憶しているが?」
「ジゼル姉のふたりの兄と弟には《スピンドル》は発現しなくて……それで、『お家の名誉のために、わたしがんばるね』って言って、無理やり聖騎士になっちゃったヒトなんだよ。最悪だ」
 アシュレの親しい口調に、シオンはピンと来た。

「まさか、家族ぐるみの困ったお姉ちゃんというのは……」
 こくり、とアシュレは頷いた。
 そして、まさにその瞬間、話題のヒトが天を振り仰ぎ、アシュレを見たのだ。

 ぽろり、と動揺したアシュレの手元から使節を歓迎するために準備された花が一輪、落ちていった。

 ジゼルは無数に花びらが舞うなかで、その花だけを手を伸ばし受け取ると、薫りを嗅ぎ
口づけして艶やかに笑った。それはどきりとするほど艶めかしかった。

 すくなくとも、アシュレの頬が紅潮するくらいには。


「い、いまのは気づかれたかな?」
「さあな。ただ、ひとつだけ苦言を呈しておくと、我ら夜魔のように『完全記憶』を持つ種族にとって、後でその記憶を検証することは不可能ではないからな」
「お、脅かさないでよ」
「それと、そなた、顔が赤いのはなぜか? あのジゼルとかいう小娘、単に家族ぐるみのつきあいがあっただけか? 白状するがよい」

「い、いや、その、むかしお医者さんごっことか、やらされてさ」
「ふむん?」
 なぜか汗をかきかきしどろもどろに言うアシュレにシオンが詰め寄った。

「そなた、わたしに隠し事があるだろう」
 ぎくりっ、と内心の動揺が顔に出るアシュレは、きっと浮気を隠し切れないタイプだ。
「言うがよい。大抵のことでは怒らぬから」
 シオンの慈愛に満ちた笑顔がこわい、と思ったのは初めてだった。

 ごくりっ、と喉が鳴った。うつむきシオンの顔から目を逸らして、ようやく、という感じでアシュレは告白した。

「い、いい、いいい、」
「ん?」
「許嫁です」

 ぴしり、と室内の気温が下がったように感じられたのは、開け放たれた窓から吹き込む外気のせいだけではあるまい。

「なんだと? もういっかい、いってみよ」
 平坦な声で命じるシオンの声が、死の宣告のようにアシュレには感じられた。

「い、許嫁……、いやっ、でも家同士がっ、親同士が取り決めたことでっ!」

 貴族階級では結婚は家同士が取り決めるものであり、貴族にとっての恋愛とは“かなわぬもの”であるか“しくまれたもの”、自然発生的でしあわせな例外として“夫婦で育むもの”――そうでなければ“不義・不倫・密通”でしかありえないという見方が一般的だった時代だ。

 シオンも大公の娘としてそれは熟知していた。

 アシュレはバラージェ家の御曹司であるし、おそらくは幼少の間にそのような取り決めが成されていたとしてなんら不思議はない。エクストラムの古い血統に連なるバラージェ家とオーヴェルニュ家がその結びつきを強め、より濃い血と《スピンドル》を求めることも自然な成り行きだ。アシュレは一人息子であるというから、女性であるジゼルにしか《スピンドル》が顕現しなかったオーヴェルニュ家としても、なんとしてその血統が欲しかったに違いない。

 ふたりの間に産まれた子のなかで複数の能力者があれば、これを我が子として養子に迎える算段までは普通にしていたであろう。

 だから、シオンの憤りはそんなところから来たのではなかった。

 イリスのときにはまったく感じなかった怒り、あるいは――悋気が、はっきりと胃の腑から、せりあがってくるのをシオンは感じた。

「なぜ、黙っておった!」
「わ、忘れてたんだよ! もう昔のことだし、ジゼル姉が聖騎士になってから、ボクが青の六花賞(その年初めの聖騎士選抜試験)に受かるまで、接点なくなっていたし! ほら、特定個人の従士や騎士に、その上位者である聖騎士がみだりに接触を持つと選抜試験などの公正さが疑問視されてはいけないからって」
「それなのに、なぜ、そなた、赤面しておるのか!!」

 シオンは自分で自分がわからなくなった。
 これほどに、ひとりの男の動向に対して熱くなった経験がなかった。アシュレの弁明に嘘がないのはわかるのに、感情が止められなくなってしまっている自分に気がつくと、よけいに、ますます頭に血が昇るのだ。ここにイリスがいてくれたなら、そういう心の動き――乙女心について解説してくれただろうに、とシオンは思うのだ。


 齢四百歳をはるかに超えているのに、色恋事にはまるきり疎い己が歯がゆくなる。そんな焦りも手伝って、シオンの行動はいっそう性急だった。

 アシュレをベッドに押し倒す。

「いやっ、そのっ、むかし、むかしのことを、思い出して……」
 シオンにベッドに押し倒され迫られるアシュレの姿は、おそらくかなり以上、まずい感じの色気を放っていた。

「言うがよい」
 完全に目を据わらせて言うシオンの態度は鬼気迫るものがあった。

「お医者さんごっことは、いかなる遊びか?」

「えっ、そこっ? いや、こう、大丈夫ですか~、お元気ですか~という、ですね」
 ひやり、とアシュレはシオンの目に映る光の音を聞いた気がした。嘘はイケナイ、とアシュレは思った。

「と、いうのを相手の体を診たり、触診したりしながらですね?」
 シオンが押さえつけていた両肩から手を放し、ショックを受けた顔で口元を押さえた。

「したのか?」
「し、しました、し、されました」
 寒いはずなのにイヤな感じの汗がだらだらと出てきてアシュレを責めた。

「そ、それで」
「あ、あとは……約束させられました」
「なにを?」
「いっ、いやっ、幼少期にはよくある、その戯れ的な?」
 だんっ、とシオンがベッドを叩いた。アシュレは不貞を咎められる妻の気分になった。

「そのっ、将来を誓わされた、というか、誓われたというか」
 シオンがいっそう大きく息を呑んだ。アシュレの口調はいっそう、しどろもどろだ。

「いやっ、あの、ひとりだけじゃなくて、みんな、みんなとね? お嫁さんごっこというか? ユーニスやレダマリアともしていたから。こう、具体的には新郎、新婦、司祭さまと……あと、お妾さんとか、駆け落ちとか、恋する尼僧とか、禁断の愛とか、そういうバリエーションは、いつもジゼル姉が持ち込んできたなあ」

 どうしてなのか、正直に話せば話すほど、自分がダメな男のように感じられるのは。

 アシュレがシオンの尋問を切り抜けられたのは、たぶん任務を遂行しなければならないことを指摘できたからだと思う。


 アシュレの指摘に、シオンは冷静な判断を取り戻した。

 ぶつぶつと、まだ燻ってはいたものの、本題を見失うわけにはいかない。
 たしかに、ことは一刻を争っていた。




 使節の構成を託された伝令役の少年僧がふたり、まったく別のルートを使って騎士本館に向かったのは、直後のことだった。










拍手[1回]

PR

コメント

プロフィール

HN:
まほそとトビスケ
性別:
非公開
職業:
空想生物
趣味:
創ることと食べること

カレンダー

07 2017/08 09
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

最新コメント

[06/03 Smithd276]
[04/25 Smithd175]
[11/21 トビスケ]
[11/20 すまちー]
[10/27 トビスケ]

最新トラックバック

ブログ内検索

リンク

P R

忍者カウンター