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自走式空想会社:クルーシブル

二匹の空想生命体・トビスケとまほそがファンタジーを創ったり、おいしいご飯を食べたりするブログ。

燦然のソウルスピナ 第三話・第十九夜:鮮血の夜

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燦然のソウルスピナ 第三話・第十九夜:鮮血の夜





         ※


 少数精鋭の、とくに《スピンドル》を代表とする異能力者集団を相手取った拠点防衛戦闘は、大軍相手のそれと様相が著しく異なる。

 そびえ立つ城塞も、堅固な要塞も、異能者たちの進軍を阻む要因になることは、ほとんどない。転移、次元跳躍、物質透過、重力方向の変更さえ行うことのできる彼らとの戦いは、だから常識的な防衛ラインである城塞や砦を飛び越えて、都市主要部であったり、要人邸内で行われる可能性が非常に高い。

 西方世界での戦争の多くが主戦場で決着をつけるか、限定的な戦略拠点を争うかによって決することが多いのは、互いが互いの首都に能力者集団を送り込む戦いを続けると首脳部である王族・貴族階級が疲弊しすぎるため、またそれ以上に都市の生産機能・生活機能が灰燼に帰すため――つまり占領する意味を失う――という暗黙の了解からであった。

 これはまったくの余談だが、その戦場にわざわざ名前がつけてある場合すらあり、戦地を互いが指定しすることさえあるのだ。建前上、領民を巻き込まない戦争、というわけだ。

 だから、この夜、行われた夜襲は西方世界本土であれば、間違いなく未曾有の大混乱を巻き起こしたに違いなかった。人類の王侯貴族たちが、自分たちの都合で造り上げた「人道」というルールの外側に、それは属していたからだ。


 けれども、そこで待ちかまえていた騎士団は、ただの軍隊ではなかった。


 炎上と同時に増員されていた夜警たちが市民の避難誘導に動いた。

 そして、潜んでいた騎士たちが刃を引き抜いた。闇に紛れるため身に纏っていた外套を脱ぎ捨てれば夜目にも鮮やかなオレンジのサーコート。

 カテル病院騎士団、その精髄である能力者が四名、配されていた。

 そのなかには法王庁使節の歓待を終え、駆けつけた騎士団長:ザベルザフトの姿もあった。

 カテル病院騎士団は戦闘要員としての一般兵を、この戦地にほとんど配していなかった。投入されたほとんどの騎士たちは城塞や教会へ向かう市民を誘導し、夜魔の引き連れる従者や軍狼から防衛するためだけに武器を構えていた。

 この時点で夜魔側の残存戦力はヴァイツ旗下:月下騎士団:残月大隊:騎士二名、少年従者:四名、軍狼:二頭。
 
 対するカテル病院騎士団はカテル市の防衛にあてられたザベル旗下:《スピンドル》能力者の騎士三名という構成であった。


 最初の交戦で少年従者のうち二名、軍狼のうち一頭が切り捌かれて、路上に屍をさらした。

 高度な治癒能力を持たない下級の夜魔である従者や軍狼の肉体は、ただの炎でも巻かれれば致命傷になる。

 カテル病院騎士たちはふたり一組となり、街路から襲いかかるそれら人外の獣に冷静に対処した。


 盾をハンマーのように使い、戦鎚の嘴のように尖った切っ先で相手を捕らえては、そのまま燃え盛る家屋に放り込んだ。

 内側から伝導される《スピンドル》エネルギーに加え、外側からは燃え盛る炎に巻かれて生けるたいまつと彼らは化した。


 カテル病院騎士たちもまた、実戦で鍛え上げられたプロフェッショナルだったのだ。

 月下騎士が相手ならいざ知らず、人外のものとはいえ、軍狼や従者に遅れをとりはしなかった。




「なかなかよい燃えっぷりではないか。さて――シオンザフィル、どう出る?」
 だから、塔を備えた豪商の屋敷の屋根に陣取り燃え盛るカテル市を眺めていたヴァイツが戦況を知るのはその直後だ。

 ぶんっ、と空を切る音がしてなにかがヴァイツの足元に投げ込まれた。

 それは数メートル手前で屋根に落ち、そのまま雪の上を転がってヴァイツの足元に辿り着いた。

「リンデニオ」
 それはヴァイツの寵愛する少年従者の名であった。

 右腕の肘から先がなかった。長く伸びた爪が叩き折られ、牙が砕かれていた。そして、明らかな致命傷は《心臓》に突き込まれた一突き。剣によるそれは、周囲が炭化しグツグツと血液が沸騰していた。強力な《スピンドル》の回転が、リンデニオの内側から臓腑を徹底的に破壊したのだ。


「おう、ここにも季節外れの蚊がいたか」
 長い年月に耐え、煤によって磨かれて鉄と見紛うばかりになった太い梁のように味わいのある声が、冷気と高温とがかわるがわるに渦を巻く風に負けることなく届いた。

 カテル病院騎士団騎士団長:ザベルザフト、そのヒトだった。

「なにか、家畜が喚いているな」
 ヴァイツがリンデニオの死体に屈みこみながら言った。

 交わされた言葉は〈エフタル〉ではない。互いに祖国の言語だった。

 もちろん、ふたりとも〈エフタル〉には精通していた。
 アガンティリスの時代がすでに三千五百年以上の昔にすぎても、その時代の言葉〈エフタル〉がこのゾディアック大陸での人種を越えた基礎教養であることに変わりはなかった。


 互いに言葉で意思疎通するつもりはないと、ふたりは言下に表したのだ。

 刹那、横合いから襲いかかった軍狼の最後の一頭をザベルは切り捌いた。

 そして、己の下僕がその命を賭して作り出した隙を、対するヴァイツは無駄にしなかった。

 ビュウ、と鮮血に濡れた〈ヴァララール〉が唸りを上げ、刃と化した超高速の肉片が刃を振り切ったザベルめがけて襲いかかった。《グルートニー・クイルズ》。己の血肉を飛来する罠として打ち出す最悪の飛び道具だ。


 必殺の間合い。
 せまく滑る足もとでのそれは、決して躱すことのできぬ攻撃のはずだった。


 だが、ザベルはありえぬ足さばきを見せた。《ラピッド・ストリーム》! 
 
 かつてアシュレたちと同道したオズマドラ帝国の第一皇女:アスカリアが見せた異能を、カテル病院騎士たちは使いこなす。雪で滑り、せまく不安定な――圧倒的に夜魔にとって有利な交戦点に躊躇なくおもむけた理由だった。


 水面上でさえ疾駆することを可能にするこの妙技は、おそらくアラムの能力者が得手だったのであろう。足場の悪い砂上での戦いが生んだ技なのだ。
 そして、カテル病院騎士であるザベルがそれを習得するのは、互いが数百年に渡り交わし続けてきた戦火が、その技を伝播・学習させたに違いなかった。

 そして、ここカテル島は常にその最前線だった。


 迫り来る獣を切り捌いた方向へとザベルはさらに加速することで《グルートニー・クイルズ》を躱したのだ。
 ヴァイツの放った《グルートニー・クイルズ》は軍狼の死体にぶつかり、まだ死にかけのそれを食い荒らした。

 ぬう、と走り込むザベルに正対するようにヴァイツが矛先を変える間に、屋根にはもうひとりのカテル病院騎士が姿を現した。

 だが、二対一であったのは一瞬だった。
 空間の歪む音とともにもうひとりの月下騎士が現れたからだ。

 戦局は目まぐるしく変転する。

 その月下騎士は女だった。アーネスト。左手の〈ガラハッド〉が猛炎を発した。

 カッ、とそれまで炎から免れていたはずの高台が一瞬、紅蓮に染まった。

 屋上に辿り着いた新手のカテル病院騎士はその業火を、しかし転がるようにして回避した。
 長剣の腹で突き込まれてくる〈ガラハッド〉の切っ先を逸らす。
 返す刀で切り上げるように放った斬撃にアーネストのスカートが切り裂かれた。

 息を呑むような攻防。

 その間にザベルが間合いを詰めた。

 斜面を駆け上がる疾風のごとき肉体が、甲冑の重量と《ラピッド・ストリーム》の加速力が可能にした巨大な運動エネルギーを纏い、文字通り弾丸となってヴァイツに襲いかかった。


 ギィイン、と火花に続いて刃の打ち合わされる凄まじい金属音が上がった。

 ザベルの剣が白熱していた。

 カテル病院騎士団団長に代々受け継がれた至宝・〈プロメテルギア〉。

 ノーマンの扱う〈アーマーン〉が絶対的な破壊を司るのであれば、ザメルの携える〈プロメテルギア〉は持ち手に活力を与え、死地の戦場に留まり続けるための《ちから》を与える不破の剣である。

 握り続けるだけで肉体が活性し徐々に体力を回復させ続けるだけでなく、その肉体の機動、制御に《意志》の力で干渉できるようになる。

 つまり、〈プロメテルギア〉の持ち主は、その予感や未来予測――勘までを含めた感覚、知覚、思考の速度で身体を統御できるようになるのだ。


 それは〈プロメテルギア〉という《フォーカス》を鏡にして、外部から己の挙動を確認しながら操作することだ、と言い換えてもよい。
 ゆえに、その力は使用者の鍛練と技量、精神の強さが如実に反映される。鍛練の足りぬものが振ったところで、真価は発揮できぬ、そういう剣であった。


 ザベルはその意味で、この時代、屈指の騎士であった。

 その正確無比の挙動に、うぬ、と上級月下騎士であるヴァイツが瞠目し、うめいた。

 東西の別なく、その並ぶもののない不死生と高い戦闘能力によって夜の支配者の名を欲しいままにしてきた月下騎士、その最精鋭が目を剥くほど、ザベルの斬撃は速く、かつ重かった。


 ヴァイツの武具が同格の《フォーカス》:〈ヴァララール〉でなけれは受けた剣ごとまっぷたつになっていたであろうほどの一撃だった。

 強力なエネルギーを刃に伝導させ、夜魔の肉体にさえ致命的なダメージを与えうる戦技:《オーラ・バースト》。ザメルはわずか一呼吸ほどのうちに己の移動能力を高める《ラピッド・ストリーム》と攻撃用の異能である《オーラ・バースト》を扱って見せたのだ。

 なんという練達だろうか。
 カテル病院騎士団団長の見せた――《スピンドル》への精通具合であった。


「やるではないか、ヒトの騎士よ!」
 思わず、ヴァイツは〈エフタル〉でザベルに称賛を浴びせた。広げられた獰猛な笑みが隠されていたヴァイツの犬歯をあらわにした。

 だが、ザベルはニコリともしない。無言でさらに一歩踏み込む。

 みしり、とすでに還暦に迫ろうかというザベルの肉体が鎧の下で音を立てた。
 第三の技:《インドミタブル・マイト》。
 鋼鉄の壁が迫るような圧力をその一歩は宿していた。


 家畜と侮っていた人類の老騎士に押し込まれ、ヴァイツは一歩、後退った。
 瞳がさらに見開かれる。

 だが、それ以上は下がらなかった。
 ザベルの肉体がそうであるように、ヴァイツのそれもまたダンディに着こなされた夜会服の下で膨れ上がった。

 夜魔の血脈――《ミディアンズ・ブラッド》と呼ばれる異能を、ヴァイツは解放したのだ。

《インドミタブル・マイト》が《スピンドル》により己の身体能力、特に筋力とそれを支える骨格を瞬間的に強化する技だとするなら、《ミディアンズ・ブラッド》は夜魔が捕食しその内側に溜め込んだ犠牲者の血、その記憶――《夢》を解放する技であった。


 ぐう、とヴァイツの上背が大きさを増した。

 それは比喩でも何でもない。
 体内に溜め込まれていた血液を戦闘的な燃料として肉体へ送り込んだ証拠だった。

 もし、ヴァイツの肉体が露出していたなら、ザベルは見ただろう。
 その血流の激しさに耐え切れなかった毛細血管が破裂し、夜魔の再生能力によって即座に再建される過程が引き起こす、体表面を走る青黒い蛇のような模様のうねりを。


 押し込まれた一歩を、ヴァイツが押し返した。

 もし、そこでザベルがこのまま騎士としての意地の張りあい――鍔迫り合いに執着していたなら、勝負はヴァイツのものだった。

 ヴァイツの佩刀:〈ヴァララール〉がその刀身を、まるで二枚貝がそうするように開いた瞬間を、ザベルは見逃さなかった。シールドを割り込ませながら即座にバックステップを切っていなければ、終わっていた勝負だった。

 ごぶり、と水袋があふれるような音がして〈ヴァララール〉が血塊を吐き出した。それも無数の牙と顎を備えた。

 夜魔の持つ他者を生きたまま捕食する性(さが)が、最悪の異能として顕現した姿がそこにはあった。《プレデション・タスク》。望めば全身を捕食器官と化すことさえできる夜魔の能力を、射出可能なカタチに〈ヴァララール〉はする。

 鋼鉄製のシールドは一秒持たなかった。

 耳障りな音とともに、火花が飛び散り、まるで紙を破るかのような容易さで無数の牙がそれを噛み砕いた。


 そして、次の瞬間、さまざまなことが同時起こった。

 神懸かり的な判断能力でシールドを手放したザベルが飛来する血塊を一刀両断する背後で、くぐもった悲鳴が上がった。

 背後で戦っていたカテル病院騎士の脚に、軍狼の死体が襲いかかった。
 それは先ほど、ザベルによって切り捌かれ、完全に息絶えていたはずの死骸であった。

 ガイゼルロンの軍狼が、いかに夜魔に近しい再生能力を持っていても、《フォーカス》によって収斂された達人の《スピンドル》エネルギーを受けては絶命するほかない。


 だが、そこにからくりがあった。

 ヴァイツの初撃、〈ヴァララール〉の《グルートニー・クイルズ》による射撃攻撃は、ザベルが躱すことをあらかじめ予測し、軍狼の死骸を狙って放たれた一撃であったのだ。

 夜魔はその血を持って、下僕を生み出すことができる。

 そして、生ける罠:《グルートニー・クイルズ》の弾体は、他になにあろう、ヴァイツの肉体そのものであった。ほとんど死にかけ、伝達される《スピンドル》エネルギーによって破壊されていく軍狼の肉体にヴァイツはそれを植え付け強引に動かしたのだ。

 通常であれば、手練れのカテル病院騎士が、鈍重な攻撃速度しか発揮できない木偶に等しい動死体を避けることなど簡単だっただろう。

 だが、戦場ですでに完全に死滅したと判断した死体が、突如として攻撃を仕掛けて来たとなれば、それは話が違ってくる。


 そして、その攻撃は女夜魔:アーネストの猛攻によって巧妙にカモフラージュされていたのだ。

 完全に死角であった足元からの強襲、そしてアーネストとの挟撃を受け、若年の騎士が敵の手に落ちた。

 夜魔たちが狡猾であったのは、それだけではなかった。

 アーネストはわずかな時間、相手の自由を奪う《パラライズ・ボルト》を行使した。

 効果時間が短く、対象によっては効きが甘いことあり、殺し合いの最中に使うような技とは言えないそれを、アーネストは必殺の殺傷力を持つ〈ガラハッド〉の大技を目くらましにして成し遂げたのだ。


 動きの止まった騎士のチェインコートが破り裂かれ、首筋があらわになった。

 そこにアーネストは牙を突き込んだ。

 大胆にもこの場で、騎士を殺さず、吸血によって下僕と化そうというのだ。

 これには、しかし、たいへんな効果があった。

 もし、アーネストが騎士を一撃の下に屠っていたのなら、ザベルは迷わずヴァイツとの戦いを続行していただろう。死者を振り返るな。それは戦場での習い性であり、掟であり、鉄則だった。

 生きながら吸血され、下僕に落される恐怖に騎士の喉から絶叫が上がった。

 それでも震える手で小剣を引き抜き、己の背後にいるアーネスト共々貫こうとする気概を騎士は見せた。
 それをアーネストは虫けらを踏みつぶすような無慈悲さで阻止した。


 数十秒で吸血は終了する。そうなれば、その騎士は夜魔の下僕と化す。

 ザベルがその若い騎士を助けるべくヴァイツに背を向けてしまったのは、単に仲間の命への献身からではなかったはずだ。
 夜魔たちに手駒を補充させない、そういう判断があったはずだ。


 だが、それは明らかな失策だった。

 そして、その失策があきらかだったからこそ、ヴァイツは飛び道具ではなくあえて手応えを実感できる白兵を選択した。

 冷徹な老騎士が、土壇場で仲間の命に拘泥した隙を捕らえたのだ。

 ザベルが背を向け数歩、《ラピッド・ストリーム》によって加速された能力で仲間の窮地に駆け出そうとしたのと、ヴァイツが《影渡り》によって掻き消え、その背中に迫るのはほとんど同時だった。

 だが、勝利の確信に〈ヴァララール〉を振り上げたまま短距離の次元跳躍を終えたヴァイツが見たのは、回転しつつ振り返りざま袈裟懸けに切りつけてくるザベルの姿だった。

 仲間の元へ駆けつける姿でさえも、フェイントだったのだ。

 常在戦場を己の御旗として掲げてつづけてきたカテル病院騎士団、その騎士団長が戦場で得た経験値、死生観は、不死者であるヴァイツには決して感得・理解できぬ領域にあったのだ。それは死線を潜り抜けてきた者だけが獲得しうる、死せる定めに生きる者だけが感得しうる、一種のギフトだったからだ。

 その予想外の反撃に対して、ヴァイツが思いきりよく剣から手を離せたのは、だから、相手がザベルという真の強者であったかもしれない。

 戦場の内で己が高まっていく感覚を、死を意識するとともに、ヴァイツはこのとき初めて得たのだ。

 亜音速に達した切っ先、白熱するその横腹を得物を手放したヴァイツの右手が叩いていた。
 もしそれが間に合わなければ、ヴァイツの肉体は完全に両断されていただろう。


 それでも左腕を肩の付け根から奪われた。

 だが、ザベルが刃を返すより疾く、ヴァイツの攻撃が繰り出された。
 振り切られた〈プロメテルギア〉を、ヴァイツの脚が押さえた。
 そして、残った右腕のまま掴み掛かった。

 こぅ、と限界まで開かれた唇から呼気とともに鋭い犬歯が姿を現した。


 ザベルはとっさに左手で庇った。それが彼の命を救った。
 ザベルは後に隻眼・隻腕の騎士として史実に名を残す。

 ヴァイツの牙が甲冑をかみ砕き、手負いとなって本性を現した夜魔の膂力が、肩関節ごとザメルの左腕を引き抜いた。

 想像を絶する痛みと大量の失血を《意志》の力でねじ伏せ、最後の一太刀を浴びせようとしたザベルが一命を取り留めたのは、駆けつけた援軍に対して優れた将であるヴァイツが即座に撤退を実行したからだ。

 ヴァイツにすれば戦術的にはカテル病院騎士団の抵抗は予想以上であり、失点を被ったものの、大局的な部分で言うのなら必要な情報は得たのである。

 夜魔は捕食した相手の血に溶けた《夢》を味わう。

 左腕一本とはいえ心臓に直結すると言われる部位、それもカテル病院騎士団の団長の血肉を得たのだ。それは敵の極秘情報を入手したことと同義だった。

 長居は無用だった。
 月下騎士団:残月大隊はかき消えるようにその場を去る。


 援軍はなんと法王庁の特使だった。炎に炙られ溶けた雪で作られた水面をゲートに“聖泉の使徒”であるジゼルとラーンが現れたのだ。

 ジゼルは転移終了と同時に夜魔に捕われたカテル病院騎士を奪還した。
 予期せぬ雪解け水さえ、“聖泉の使徒”であるジゼルには追い風だった。

 そして、その登場が最後の一押しだった。



 今宵のカテル病院と月下というふたつの騎士団の激突は、ひとまずにせよ決したのである。


 カテル市の攻防は一般市民に死傷者は少なかった。
 だが、カテル病院騎士団は一名の能力者を失い、騎士団長:ザベルほか一名が重傷を負った。対する月下騎士団も女夜魔ひとり、少年従者を一名、軍狼を二頭、殺害されている。




 必死の消火作業が行われたが延焼は明け方になるまで収まらなかった。
 
















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