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自走式空想会社:クルーシブル

二匹の空想生命体・トビスケとまほそがファンタジーを創ったり、おいしいご飯を食べたりするブログ。

燦然のソウルスピナ 第一話:第十七夜・悪をあがなうもの

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燦然のソウルスピナ 第一話:第十七夜・悪をあがなうもの


「孕んだか、理想の主を。救い主を」
「はい、感じます」

 グランの問いかけに、聖女然とユーニスは答えた。

「それはいかな救いをもたらす?」
「永遠に輝く威光で大地を治め、民を善導する救いです。悩みを、迷いを、裏切りをなくします。この世から非合理と無秩序のすべてを消し去ります」
「民を救うか」
「いいえ、民は救いません。民は下僕です。しかし、幸せな下僕です。来きたるべき世では、考えることの責任から、行うことの責任から、決断し統治することの責任から、その汚濁と屈辱と腐敗から、かれらは完全に自由ですから。善導とは、つまり、そういうことです」

 清らかな口調で告げるアルマの脳裏を、領民たちによって火をかけられ燃え盛る王宮の影絵が過っていった。捕らえられ、ヒトとしての尊厳を引きむしられた少女の人生が過っていった。

「民は家畜です。でも、しかし、それは幸せな家畜。人の世の苦役のほとんどは、悩みからくるのです。どこに行けばいいか、どうすればいいのか、なにを信じたらいいのか。わからぬから、苦しむのです。――来るべき世では民は、すでにして救われている。苦しみの根源である悩みから」
「では、だれを救うか」
「統治者を。勝利者を。君臨し、世に秩序をもたらす者を」
 自ら責務を負う者たちの後ろ盾となりましょう。その統治の正当性を示すための光となりましょう。行わざる者たちに後ろ指をさされ、悩まぬ者たちに謗られ、決断せぬ者たちに追い立てられる――いわれなき咎のように――責任を負うべきと定められた者たちだけを、救います。
「その世でだけ、ヒトは真の自由を知るのです。真に正しいものが――そう輝かしきものの後ろ盾によって証明された者が――割り振る役割に、まちがいなど、ないからです」

 まったくの澱みなく、ひとりにしてふたりの聖女・アルマとユーニスは言った。

「それが王国(マルクト)。約束の地」
 よきかな。グランが同意した。

「では、姫・アルマステラにしてユニスフラウよ。約束の主を育むべき聖母よ、我に最後の役割を与えたまえ」
 ずらり、と〈パラグラム〉の腕が持ち上がった。
 
 発光する尖端の〈デクストラス〉に《ねがい》が集中して行くのをアルマは法悦の笑みを浮かべて見ていた。
 生まれ出でる“主”の善を証明するため、限りない《悪》が生じようとしていた。

         ※

「姫ぇえ、はやく、はやく帰ってきてぇえ」

 イズマは高台の茂みで震えていた。
 突如としてグランの暴走が始まった。口といわず眼窩といわず、グランの肉体から爆発的に黒雲が湧き出し、渦を巻いた。無数のいなびかりが黒雲の表面を走り、超大型の低気圧が地上に舞い降りたようだった。
 恐るべき吸引力によって周囲のあらゆるものが黒雲の中へと引きずり込まれていった。先ほどまで互角か、あるいはわずかだが優勢に戦いを進めていたナハトの巨体が、その黒嵐に組み伏せられ、この世のものとは思えぬ絶叫をあげた。

 アシュレたちはその混乱のさなか、帰還した。

「ひ、姫ぇええ!」
 茂みを潜り姿を見せたシオンにイズマは抱きついた。うひょう、と奇妙な声を上げながら、泣き笑いの顔で。今回ばかりはシオンもイズマを邪険にしなかった。
「待たせたな。どれほどかかった?」
「もーまじっで、やばかったんですから。ほんっとに、ちょーやばかったんですから」
「イズマ、ごくろう、簡潔に頼む」
「一刻は経ってない、と思われます」
「払暁までどれくらいか」

「一刻と半ほどかと……てえええっ、姫ぇええッ! 服ッ、服はああああッ!」
 あわあわ、と両の手の指を口の中に突っ込んでイズマが慌てた。ああ、とシオンは平坦な声で応じた。
「グランの計略に嵌まりかけてな」
 な、とアシュレは同意を求められた。

「あ、えと、そうです」
「危ういところで、なんとか抜け出せたが、服はなくしてしまった」
「うつせみ的な技で?」
「そう、うつせみ的な技で。な」
 こくん、と頷いて見せるのが精一杯だった。イズマは一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑顔にもどった。
「なら、いいんです」
 ただ、こっちは激ヤバです。イズマは真顔になり、ふたりに告げた。見ればわかるが、報告を受けたふたりはツッコミの余計な時間を惜しんだ。
「の、ようだな。再武装を急げ」
 そう言ってシオンが素肌に〈ハンズ・オブ・グローリー〉を纏いはじめるのを、アシュレが慌てて止めた。
「素肌に鎧はだめだ。ケガするし、肌が傷つく」

 それまで乗騎であるヴィトライオンと感動の再会を確かめ合っていたアシュレはこれを、と言い纏っていた上着を脱いだ。上半身があらわになり、予想以上に鍛え上げられた肉体があらわになった。
 とたんにイズマがすっとんきょうな声を上げた。

「脱いだら凄いんです的な〜、ってアシュレくんッ、傷、傷、スゲエ傷ッ!」
 服のせいで気がつかなかったが、アシュレの首筋と背中には無数の噛み跡と掻き傷が縦横に走っていた。

「道理で、ヒリヒリすると思った」
「なに、狼でもけしかけられてたの?」
 や、いかんねえ、はやく消毒しないと、野生動物の牙や爪は膿んだり病を媒介させるからねえ。イズマの本気の心配にアシュレはなぜか申し訳ない気分になった。

「なになに、この傷、見た事ないな。クマ? トラ? ジャガー?」
「いや……コウモリ、かな?」
「ジャイアントな? バット的な?」
「イズマ、早くしろッ」
「いや、姫、ボクの用意はもう万端ですよ。それよかアシュレくんのね、傷の消毒だけはしとかないと、後がね、コワイから」
 でも、とイズマが傷を眺めながら言った。くんくん、と鼻が活発に動いていた。完全な善意が、あらぬ方向から、決して知られてはならぬ事実へと肉迫しつつあった。

「なんか、すげー良い匂いがすんだよな。全然獣臭くないし。アシュレくんってば、騎士なのに香水派?」

 さすがに焦ったのか、シオンが強硬策に出た。文字通り捨て身の策だった。
「うん、や、やはりシーツは邪魔か。いたしかたないか、なあ、そうであろ?」
 ばっ、とあからさまな音を立ててシオンはシーツを脱ぎ捨てた。
 一瞬、シオンのすべてがそこにあらわになった。アシュレの上着と影で作られた衣装がそれを隠すまで、一秒もなかったはずだ。
 だが、イズマは雷光の速度で首だけで振り返り、その場面を目に焼き付けていた。それから血の河を吹いた。鼻から。大河だった。しばらく嗅覚は使い物にならないだろう。



「生きててよかった」
 嗅覚を殺されてなお、辞世の句を詠みそうな穏やかな顔でイズマは言った。両膝をつき、奇跡を目の当たりにした者の顔をしていた。

「ボクちんは今日という日を忘れないッ」
「介錯はまかすがよい」
 無言で感涙と血を流すイズマの眼前で、記憶を失わせるべく攻撃の予備動作に入るのを、アシュレは必死でとりなした。記憶どころか命まで消し飛びかねなかった。

「ボクも、ボクも見たしッ」
「ゆ、友情ォッ!」

 イズマにおかしな勢いで感謝された。イズマの中で同好の士と思われていないかどうかだけが、アシュレには気がかりだった。シオンは耳まで真っ赤になって俯いてしまった。

 耳を聾する絶叫が上がったのは、そのときだった。
 降臨(ダウンロード)、とそれは呼ぶにふさわしい光景だった。光の柱が嵐の中央、災禍の中心、グランのねじくれた肉体に注がれていた。
 だが、舞い降りたのは天使などではなかった。それは舞い降りながらグランと融合しつつあった。聖と邪が入り交じる寒気を覚えるような光景だった。そこに美を見出すか、敵意を見るかは、その人間の心のありようしだいであっただろうが。

 王冠と紛うような巨大な角を備えていた。赫々と脈打つ血管の浮いた六本の腕。ヒトのものとはあきらかに異なる骨格、分厚く鱗を伴なった筋肉の束。そして、それらにはありえない隙間が空いており、内部にグランの死骸を構築していた強力な呪いを帯びたねじくれた黒色の骨格が息づいていた。そして、さらにその奥には水では消せない炎が逆巻くのが見えた。



 落ちくぼんだ眼窩から、ときおりその炎が吹いた。
 おおおおおおおおおおおおお、と深い穴ぐらの底から響くように、それは啼いた。肉体のそこここから生えたように見える羽根は六羽あり、それぞれが個別の三体の使い魔のものだった。


 

「グラン・バラザ・イグナーシュッ!」
 ぎりりっ、とアシュレは歯ぎしりした。同じ仕草をシオンがまったく同時に、同じように名を呼びながら行った。
 それは魔王の様相をあらわにしたグランの真の姿が背負う磔刑台に理由があった。
 ヒトが吊り下げられていた。手枷を打たれ、純白のドレスは鉤裂きになって。

「ユーニスッ、アルマッ!」

 小さくアシュレは叫んだ。取り乱さなかったのは《意志》の力がアシュレに冷静を強いていたからだ。イズマが《スピンドル》の力を喚起させ、アシュレの肩に手を置いてくれていた。
「あれが連中の手なんだ。大事なものの惨状をこれ見よがしに見せつけて冷静さを奪う。手に乗っちゃあダメだ」
 信頼の眼差しでアシュレはイズマを見た。こういうとき本当は一番頼りになる男なのだとアシュレはイズマという男を評価していた。
 イズマはアシュレの肩に手を置いたまま、威厳のある声で言った。

「だけど驚いた。アシュレの想い人って、まじでチョー美人なんだね。嘘かと思ってた」
 いや、そこですか、とアシュレは肩透かしをくらった。
「だが、グランめ……趣味が悪いな。なぜ、なぜ、剥かんッ、こう、ぐるっと全部ッ!」

 あまり子供たちには見せられない仕草で、イズマはなにかを剥く仕草をした。
 アシュレは前言を撤回すべきか、しばし悩んだ。

 降臨王・グランはその巨大な磔刑台をかつてナハトベルグであったバケモノの肉体に打ち込んだ。限りない怨嗟の声で啼くそのバケモノの頭部を穿ち、台は地面に深々と突き立った。グランはそれだけでは飽き足らず、ナハトの右腕と化したかつての〈ニーズホグ〉をちぎり取った。毒など意に介した様子もなくそれを骨ごと抜き取ると左手に構える。

 それから、主武器(プライマリー・ウェポン)を召喚した。

 それはグランの胸板の中心に突き立っていた。アシュレもシオンにも見覚えがあった。
 聖遺物・〈デクストラス〉。それが、グランの得物だった。グランが掌をかざすと〈デクストラス〉は生きもののように柄を伸ばした。その柄を掴み引き抜けば瞬く間に〈デクストラス〉は槍としての姿を創り上げた。柄の部分が鋭い牙の連なりでできている、到底、生物には扱えぬ形状をそれはしていた。強力な呪具そのものだった。

 おおおおおおおおおおおおおおおおお、とそれはもう一度、啼いた。足下でナハトはそれでも死ねずに蠢いていた。不死身であることと無限の苦痛はここでは同義だった。

 びょう、とナハトから剥ぎ取られグランのものとなった〈ニーズホグ〉が唸りをあげて磔刑台に吊り下げられたアルマの肉体を掠め飛んだ。
 アシュレの焦燥を煽るように純白の衣装がちぎれ飛んだ。思わず飛び出しかけたアシュレの肩にかけられていたイズマの手に力が込められた。
 
「なるほどッ、そういう趣向か。グラン、おそるべしッ」
 なにが、おそるべしなのか知らないが、引きちぎられ風にさらわれるレースの断片は、大変な感慨をイズマに与えたようだった。この男の発言だけを聞いていると、どんな絶望的な戦いでも生きて帰れそうな気になるから、ふしぎだった。

「これが、ライブ感ッ。そういうことかあッ!」

 ね、ちょっとやられちゃったよね、などとキリッ、とした顔で言うものだから返答に困る。アシュレの行動と意気を挫いたイズマは、そのキリッとした表情のまま、なにか思い出したらしく脚長羊にさげていた道具の中から、ひとつ、折りたたまれた衣類を差し出した。

「サイズがどうだろうかと思って、前は渡さなかったんだけど」
 差し出されたそれは右腕だけの防具だった。薄いのだがふしぎな素材で出来ており、所々に見たこともない獣の皮と鱗を加工したものだろう、恐ろしく固い装甲がついている。だが、そのどれもが柔軟で動きを妨げない。一目見て神懸かり的な武具だと直感できた。

「……これは」
「雷龍の皮と鱗を加工して作ったものだよ。電流と高熱に対してとんでもない耐性がある。本来はひとつそろいの武具で、龍の口の中をぶち抜く戦術のためだけど」
「イズマ……さんの?」
「さん付けはやめるって約束でしょが。サイズ見なよ、ぜんっぜんちーさいから」
「ボクには……ぴったりだ」

 アシュレの言の通り、その指先から胸元までを覆うふしぎな長手袋は、あつらえたようにぴったりだった。肩と反対側の脇とに帯があり、結んで固定する方式だ。

「なるほど、よく合ってるわ。アイツ……土蜘蛛のクセに手足短かったからな」
 恬淡とイズマが言った。

「アイツ?」
「ああ、それ、ボクの子供のおさがりさ」
「子供……いたんだ」
「あのね、アシュレ、ボクがいま何歳に見えます? もね、ぶっちゃけ言っちゃうけど、八百越えてんですよ。けっこー長い間、寝てたから正確じゃないけど、奥さんだって何人もいた。あ、いま、うろんな顔したな」
「でも、そんな大事なもの、貸してもらえませんよ」
「使える道具抱え落ちすんのヤでしょが。だいたい、死んだ人間のモン持ってたって、ホントは意味なんかねーンですよ! 使わなきゃね!」
「死んだ?」
「そ、雷龍にひと齧り。帰ってきたのは右腕とそれだけだった。ま、しょうがない。本物の嵐と同じくらい強大な生きものに挑んだんだ、覚悟の上だったさ、たぶんね」
 だからさ、それ、返さなくていいよ。
「一応名前だけはあんの。〈ガラング・ダーラ〉。嵐を墜すもの、みたいな意味でさ。ホントは装備一式の名前なんだけどね。土蜘蛛の言葉で。ま、大層な名前を背負ってても、負けちゃ意味ねーっての」

 そんなの、もらえない、と躊躇するアシュレの胸をイズマが小突いた。

 珍しく伝法な口調でイズマが言った。
「使えるモンは全部使えってつってんだよ。アレは——グランはとびっきりのバケモンだ。〈シヴニール〉の最大出力でオマエの右手が消炭になっちまうまでやらなきゃ勝ち目なんてねーぞ? それに」

 それにそんなこと遠慮できるほど、軽いモンか、あの女、ユーニスってコは。
 もう一度アシュレを小突いてイズマは言った。アシュレはイズマをまっすぐ見なおした。

「お借りします」
 年嵩だけなら笑ってしまうほど離れた男たちの友情を、シオンがまぶしげに眺めていた。アシュレとイズマがそれに気がつくと、途端に冷酷な姫将軍の表情を作って言った。

 
「全員、装備は固めたか。覚悟は決めたかッ」
 イズマッ、とシオンは軍師に発言を促した。
「戦況分析と、戦術を!」

 はっ、とイズマが応じた。
「さきほどのグラン降臨により足下の不定形の怪物は瀕死。亡者どもはキリなく湧出中。ですが、これにしたってグランがリソースを裂いているわけで、余裕がなくなるまで責め立てれば問題ないでしょう。
 降臨者・グランは健在ですが、黒雲の着衣が霧散したため、近接戦闘は以前より、やりやすいと推察します。
 ただし、体内に不死者時のフレーム残存が確認できるため吐息(ブレス)のような手段で打ち出される可能性が極めて大。密集隊形では一網打尽にされるでしょう。足を止めた打ち合いも危険。おそらく大きな予備動作が必要でしょうから、見てから躱すにせよ、捕捉されないためにも速力が勝負かと。
 また、敵は使い魔三体による飛行行動が可能と推測します。
 飛び道具のある相手に上方を押さえられたら手も足もでない。亡者呼び放題の撃たれ放題、良い事はなにもない。
 だから、まず飛行能力を司るこいつらを叩きます。最も攻撃レンジの長いアシュレの〈シヴニール〉で頭を押さえながら、〈ローズ・アブソリュート〉で絡め捕る。地面に落としてからは出たとこ勝負、って感じになるでしょうが」

「敵の攻撃能力は」
「吐息以外は、ボクが解説します」

 直接そのどれをも体験したアシュレがあとを引き取った。うん、とシオンもイズマも納得した。適任とはこのことだった。

「まず、グランは加重の技を持っています」
「《グラビティ・スフィア》だな」
「喰らうと動けない。それなのに、相手は行動してくる。また、重ねて対象にとることで加重は増していきます」
「騎乗戦闘中には最悪の技だな」
「盾・〈ブランヴェル〉では受けれる?」
「難しいですね。発動前兆は掌で《スピンドル》が渦を巻くんですが、わかりづらい」
「無礼者をひれ伏させるための技というわけだ。ヤツらしい」
「そいつはボクちんが見張ってましょう。《スピンドル》の流れを掴むのは、お家芸なもんでね。警告しますよ、グラビティ! って」

 まかせます。シオンもアシュレも同意した。

「それから、あの鞭みたいな刃ですが。〈ニーズホグ〉。展開するとあたりの風景と同化してほとんど見えなくなります。切先に猛毒があって、かするだけで危ない」
「〈ローズ・アブソリュート〉で撃ち落としてくれよう。わたしなら毒など杯であおったとて、大事ない」
「そして、最後に〈デクストラス〉。もっとも危険な攻撃です。突き立てた犠牲者に《ねがい》を注いで《そうして》しまう。不死者であろうがなんだろうが、関係なく致命の武器です」
「喰らうな、ということか」
「かする程度なら耐えれるはず。それに物理実体のある攻撃なら、盾で止めます。いざというときは、ボクの背後に隠れてください」
「遠慮なく、そうさせてもらおう」

 連携が重要、ってことだね。イズマが締めくくり、全員が確認を取りあった。

「ならば、軍議(ブリーフィング)はこれまでとする」
 行こう、と頷いたアシュレに、もうひとつだけ、とシオンが言った。
「そなた、腹は決まったのだろうな」
「ああ」

 アシュレはシオンの瞳をしっかりと捉えて言った。ユーニスとアルマのことだった。

「助ける」
 断固としてアシュレは言った。

「この結末が、彼女らふたりの望んだものだとしても、そのために引き起こされたものだとしても、彼女たちは、ボクたちに助けてほしいと《ねがった》んだ。
 彼女らの行いの正否はともかく、こうしなければならないほどに彼女たちを追いつめたのはボクたち自身、そしてボクたちの属する世界なんだ。

 ボクはこれまで貴族の目線でしか世界を見ていなかった。
 貴族の世界からは駆逐され排除されたように見えていた数多の不幸や、非合理や、不正を、だれに押しつけていたのか、押しつけることでなにが護られていたのか、愚かにも知らなかった。無意識にもボクらが《ねがい》、《そうしつづけて》きたことを知らなかった。
 きっと、いまでもわかっていないことばかりだ。だけど、ひとつだけわかったことがある。それはユーニス、アルマ、そしてグラン……もしかしたらナハトベルグでさえ、ある意味で、その押しつけられたボクたちの責任の被害者なんだ。
 そして、すくなくとも、いまボクたちには、そこから彼女たちを助け出すだけの力がある。その《そうする》力の暗い淵から。だから、ボクは助ける。
 ここで彼女たちを見捨てたら、キリがないからと言い訳して《そうする》力について考えることをやめてしまったら、ボクたちは、ボクたちの正義を信じられなくなってしまう。それに……」


 それに、とシオンが先を促した。アシュレが甲冑に包まれたシオンの手を取った。

「ボクは、やはりユーニスを愛している。どんなに姿が変わっても、アルマと溶け合っていても、あれはユーニスなんだ」
 不実なことをしている、とアシュレは思った。ユーニスへの愛が確かなものであるのと同じくらい、アシュレは眼前の夜魔の姫が己の中で大切に思えることを自覚していた。
 だからこそはっきりと告げる必要があった。自分の《意志》を。戦端を開く直前に、心を乱すような事態に陥っても。


 だが、シオンの反応はアシュレの予想の斜め上方を行った。
 抱きつかれた。満面の笑みだった。嘘偽りのない笑顔だった。

「それでこそ、アシュレダウだ」
 ばんばん、と装甲された右手で背中を叩かれた。傷にしみた。
「そなた、立派になったな。男であるな」
 まるで老兵に認められた新兵のようだとアシュレは思った。
 シオンはアシュレの成長を手放しで喜んでくれていた。
 
踏ん切りをつけるはずだったのに、よけいにシオンに惹かれてしまう心の動きを、アシュレは抑えられなくなってしまった。

 そんなアシュレの胸中など斟酌することなく、現実は進行する。

 全員が騎乗した。
 シオンはアシュレの側に。地に降りるまでの間、後部に立った。

「さあ、ものども征くぞ! 大戦(おおいくさ)ぞ! 賭金・送金は済ませておけよ! アシュレ、火蓋を切れ!」
 高らかにシオンは言い〈ローズ・アブソリュート〉を顕現させた。青い炎が上がった。
 長い死闘の始まりだった。








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