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自走式空想会社:クルーシブル

二匹の空想生命体・トビスケとまほそがファンタジーを創ったり、おいしいご飯を食べたりするブログ。

燦然のソウルスピナ 第二話:第十五夜・愛の呪式

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燦然のソウルスピナ 第二話:第十五夜・愛の呪式



□燦然のソウルスピナ 第二話:これまでのあらすじ(第十五夜を終えて)


 同僚の尼僧:アルマが関与を疑われたエクストラム法王庁襲撃事件に図らずも立ち会い、そのために奪われたふたつの聖遺物の奪還を任ぜられた若き聖騎士: アシュレは、聖務に従い赴いた先=廃虚となった亡国:旧イグナーシュ領で、オーバーロード:グラン率いる亡者たちの襲撃を受ける。

 圧倒的な物量と常軌を逸する亡者の群れにアシュレ率いる聖堂騎士団は壊滅の憂き目に遭う。
 アシュレは、その最中に幼なじみであり、また最愛のヒトであったユーニスさえ失ってしまう。

 亡者とその主:グランの纏う破滅の黒衣に包囲された絶体絶命のアシュレを救ったのは、驚くべきことに、法王庁から聖遺物を奪取した主犯と目された存在——夜魔の姫:シオンとその下僕を自認する土蜘蛛の男:イズマであった。

 ユーニスの生存を確認し、また途上で亡者に襲われる村落:イゴの村民に加担するにいたり、共闘関係を結んだ三人は、それぞれの想いを胸に、オーバーロード:グランと対決する。



 絶体絶命の窮地に陥りながらも、シオンの献身とイズマの協力により、アシュレは辛くも勝利を掴む。

 しかしそれは、苦く報われぬ栄光なき勝利であった。

 亡者たちに襲われ死に瀕したユーニスは、実はかつてイグナーシュの姫君であったアルマとともに、アシュレを愛するという《ねがい》のもとに融合を果たしていた。



 それは、エクストラム法王庁の規範に照らし合わされたとき、火刑を免れぬ重罪であった。
 そしてまた、アシュレは夜魔の姫:シオンと土蜘蛛の王:イズマと共闘した咎で、法王庁には帰還できなくなってしまう。

 イゴ村に偶然居合わせたカテル病院騎士団の男:ノーマンの申し出により、その本拠地:カテル島への逃避行を、アシュレは決断する。

 ノーマンの手引きにより無事、船上のヒトとなったアシュレとその一行(夜魔の姫:シオン、土蜘蛛の王:イズマ、ユーニスと融合を果たしたかつての同僚に してイグナーシュの姫:アルマ=記憶を失いイリスという名をアシュレに与えられた)は、酒宴などのハプニングに見舞われつつも、互いを想い合う心を確認し あい、ささやかな平穏を享受していた。 

 

 だが、その彼らの行く手に暗雲が垂れ込める。

 それこそは“廃神:フラーマの漂流寺院”

 かつて、邪神として海に放逐された女神の彷徨える海上寺院が立ち塞がったのである。
 アシュレは仲間たちとともに、海路を確保すべく解決に乗り出す。


 だが、そこで彼らを待っていたのは、突如として本体を現した邪神:フラーマによる分断であった。

 仲間とはぐれたアシュレは、その漂流寺院にて、本来敵対勢力であるはずの異教:アラムの姫君を救助する。

 アスカリア・イムラベートル。
 アスカと名乗った彼女を伴い、離れ離れとなった仲間たちとの合流、そしてこの漂流寺院からの脱出を図るアシュレたちはいつしか、語ることを禁じられた古い神話のなかにとらわれてしまう。

 土蜘蛛の王:イズマをして「神話の再演」と言わしめた、神話的呪縛・回路。

 その渦中に囚われたアシュレたちの眼前で、神話が徐々にその姿を、現実の脅威として
 あらわにし始める。

 戦いのさなか、互いが課せられた目的を明かし、真情をぶつけ合うアシュレとアスカ。


 いっぽうで分断された仲間たちのうち、シオンとイリスはふたり、アシュレたちとの合流を図る。
 現れるフラーマの眷族をいなしながら進軍を続ける彼女たちは、思わぬ陥穽に嵌まってしまう。
 
 それはふたりの女たちがともに堕ちた、アシュレへの愛という奈落だった。












「くう」という可愛らしすぎる悲鳴をあげて、シオンがしゃがみ込むのをイリスは見た。

 聖剣・〈ローズ・アブソリュート〉で武装した最上級の夜魔という存在が味方であった場合、これほど心強いものなのかということをイリスはいまさらながらに思い知っていた。
 舞い躍るようなシオンの体裁きから繰り出される〈ローズ・アブソリュート〉の一撃は、大挙して押し寄せるフラーマの落し仔たちを、白熱する刃が飴を溶かすように容易く葬り去っていった。

 たとえ、ほんのかすり傷からでも〈ローズ・アブソリュート〉が落し仔たちに与えた傷は瞬く間に傷口を広げ、致命傷となる。
 廃れ神とはいえまがりなりにも神の眷族となれば、おそらくはほとんどの金属に対する呪的耐性を備えており、ただの鋼では傷さえ負わせられぬ可能性が高かった。


 いや、実際、イリスの装備する眼鏡のカタチをした《フォーカス》:〈スペクタクルズ〉はそう告げていた。

 シオンを前面に押し立て、イリスが〈スペクタクルズ〉を用いてマップを構築、敵の情報・挙動を読み解きながら前進するふたりのコンビネーションは、相当に強力だった。

 そうやって前進するうち、霧の空を光条が切り裂いた。
 アシュレだ、とシオンが言い、応じるように大技を繰り出した。




 《プラズマティック・アルジェント》。

 なかばプラズマ化した〈ローズ・アブソリュート〉の刃が舞い散るバラの花弁のように渦を巻き、周囲の敵を中心部へ引きずり込みながら粉砕するさまは、恐るべき広範囲殺戮攻撃であるのに胸を打たれるほどの美しさを持っていた。
 また、攻撃の前後に喚起される清々すがすがしいバラの香りが、落し仔たちの甘ったるいミルク臭を打ち消し、呼吸を楽にしてくれた。


 応えるように、アシュレの光条が夜陰を貫いた。

 ふたりの快進撃は止まることを知らぬはずだった。
 このままアシュレと合流してしまえば、いまだ正体・得体の知れぬフラーマにさえ勝機がある、と確信していた。


 その矢先にシオンが倒れた。
 いや、正確にはしゃがみ込んでしまった。
 くう、というかわいらしい悲鳴とともに。


 イリスは慌てて駆け寄った。
 幾度目かの大技を放ち終えた後で、船体の残骸の集合体である浮島は上下に揺れていた。
 立て続けの連続技が負担を強いてしまったのか、と考えたのだ。


 駆け寄ったイリスの見たシオンは、眉根を寄せ、同性の彼女が見ても魅入られるような表情をしていた。
 剣を手放し、装甲された両腕を自ら抱いて恐れに震える子鹿のように竦んでいた。


「やられた」
 そう言うシオンの吐息は、気のせいだろうか艶めかしく濡れていた。
「ヒラリのやつ、墜ちおった」

 アシュレの光条に目がくらんだのだ。
 シオンが言い、イリスは息を飲んだ。ヒラリはコウモリであるから視覚、というより帯電した大気にやられたというのが正しいのだろうが、大意は伝わった。
 
「海にッ?」
 使い魔とその主人の間には霊質的なリンクが存在する。
 使い魔の危険=即主人の命の危険、というわけではないが、相当のダメージ・苦痛があることはイリスにもわかっていた。
 癒着した傷口を無理やり引き剥がされるようなものだと知っていた。

 だが、シオンの様子はそれとはまた違っていた。

「頭。頭髪だ。この感触、匂いは——」
 シオンが口を押さえてのけ反った。全身が痙攣していた。意志とは無関係に暴れ回る肉体を〈ハンズ・オブ・グローリー〉で装甲された腕が必死に押しとどめていた。

「だめっ、だめだっ、これっ、ぜん、ぜんぜんっ、ぜんぜんっ、むりだっ、耐え、られないっ」
 切迫した声でシオンが訴えた。それでイリスにも事情が飲み込めた。
「もしかして、アシュレのところに墜ちたの?」

   

 こくっ、こくっ、とシオンが頷くことで同意を伝えた。
 いつも冷静沈着で我慢強いシオンが身悶え、泣いていた。


 イリスの顔から血の気が引いた。その原因が自分にあるのだと気がついて。
 かつてまだイリスがユーニス、あるいはアルマというふたりの女性であったとき——あるいはその孤独な心の融合体となって間もないとき、彼女たちは決して許されない、許されてはならない所業をアシュレに強いた。

 聖遺物であるふたつの《フォーカス》=〈デクストラス〉と〈パラグラム〉を用い、アシュレに《ねがい》を射込んだのだ。

 理想の王として。

 さらに、その王の妻を望んだ彼女たちは、アシュレが《自分たち》だけを求めるように仕組んだ。それは重度の後遺症のようにアシュレにつきまとい、アシュレは彼女たちの誘惑に抗えない身体にされた。

 もし、彼女たちの思惑通りことが運んでいたなら、アシュレは彼女たちの理想的な主人であり、同時に従順な虜囚と成り果てていたはずだ。
 それは
《ねがい》の操り人形だ。

 吐き気がするような発想だとイリスは思う。
 だが、同時に、ふたりの女性——結果としての自分自身に、深い共感を憶えてもいたのだ。

 もし、そうやってアシュレを独占できるなら、できるのだとしたら——もう一度、同じ選択肢を突きつけられたなら、やはり同じようにするだろう。そう考えてしまう自らの卑小さ、醜さに胸が潰れそうになるようになった。

 もちろん、アシュレがそうであるのと同じで、イリスもまたアシュレを求めずにはいられない。等価の呪いではあったのだ。
 アシュレの静養のためにと自粛した三日間は地獄のようだった。
 たった一日、触れてもらえないだけで気が狂いそうになった。


 アシュレへの想いが胸の中を嵐になって吹き荒れ、肉体は翻弄された。
 あまりのことに恥じ入れば恥じ入るほど症状は悪化した。
 今夜、同道したのだって、もし生き別れになったら、自分だけが残されてしまったら、と考えると耐えられないのがわかっていたからだ。


 間違いなく狂死する、と知っていたからだ。

 イリスは自らの恥知らずな《ねがい》のありさまと、その結果としての肉体を思うと羞恥で胸が張り裂けそうになる。
 それなのに求めることをやめられない。
 アシュレが好きなのだ。
 恋慕の想いとその発露としての肉欲で、高鳴りすぎた心臓が止まってしまいそうだった。


 だから、もし、呪いが完全に効いていてアシュレを自分と同じ身体にしてしまっていたなら、その足下に身を投げ出して一生の隷属を誓願していただろう。

 それぐらいしか償う方法が思い浮かばなかった。

 だが、結果として、アシュレに刻印された呪いは、イリスが考えたよりは深刻ではなかった。その屈服と服従の呪いを受け止め、効果を減じた娘がいたからだ。

 シオンザフィル・イオテ・ベリオーニ。
 夜魔の大公・スカルベリの息女殿下。

 ふたりではじめてアシュレの寝台にのぼったとき、イリスにはそれがわかった。
 呪いはその対象が限定的であればあるほど強くかかるものだ。
 裏を返せば対象が分散するとその効果も薄れる。
 アシュレにかかるはずだった呪いの大半がシオンに移し替えられていたのだ。
 かわりにシオンはイリスと同じ苦しみに身悶えすることになった。


 愛情と恋慕と肉欲の牢獄に捕われてしまった。

 そんなシオンが、同じように三日の断絶のあと、想い人の匂いや体温や感触に接してしまったらどうなるか——結果は火を見るよりあきらかだった。

 媚薬の原液で満たされた水牢に、手枷足枷をされ、放り込まれるようなものだ。もがけばもがくほど、あがけばあがくほど、媚薬を飲み、肌から浸潤してしまう。

 夜魔は種族として毒や病に極端に強い耐性を持つが、愛はそんな耐性など関係なく素通しで心を捉えてしまう。

 いや、むしろ、なまじ耐性が高いせいでそれらに翻弄された経験がないゆえに、致命的である可能性さえあった。対処法がわからないのだ。

 解呪の方法がないわけではない。
 イリスは独自にその方程式に辿り着いてはいた。

 ことの仔細を伏せたまま、イズマにその手の呪法についての質問を行い理解を深めたのだ。
 イズマは、さすがは権謀数術に長けた土蜘蛛の王であった。















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